やぶちゃんの竹談義 |
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やぶちゃんは木工職人さんですが、竹を使った作品もいくつか持っています。
いわゆる“竹細工”です。でも、やぶちゃんは「竹細工というほどのものではない」と自己評価をしています。
竹細工というと、竹を細長く切った竹ひごを編み込んでつくる籠などを思い出しますが、これはたいへん手間のいる作業らしいです。
「やぶちゃんの性格には合わないかも知れないね」というと、たいそう機嫌が悪くなりました。やぶちゃんの弁によると、決して手間暇をかけるのが嫌だというわけではないとのこと。そこには梨の木と同様に、竹に対するやぶちゃんの想いがあったのです。
やぶちゃんは、青い竹が好きだそうです。
私も、大空に向かってすっと伸びていく、青い竹のさまが好きです。
きちんと手入れがされている竹やぶに入ると、一段と清々しくて美味しい空気を味わうことができます。高く伸びた竹の先っぽから入ってくる木漏れ日は、おとぎ話の国へ導いてくれるようにも感じます。かぐや姫の話も、きっとこのきらきらの木漏れ日から生まれたのでしょう。
足下に目をやると、しっかりと地面をつかんでいる根があります。たくさんの笹の落ち葉に隠れているものの、もこもこっと盛り上がった根には力強さを感じます。たけのこが生えてくる季節は、なおいっそう楽しみが広がります。
学校の教科書にのっていた萩原朔太郎の詩を思い出します。
竹
光る地面に竹が生え、
青竹が生え、
地下には竹の根が生え、
根がしだいにほそらみ、
根の先より繊毛が生え、
かすかにけぶる繊毛が生え、
かすかにふるえ。
かたき地面に竹が生え、
地上にするどく竹が生え、
まっしぐらに竹が生え、
凍れる節節りんりんと、
青空のもとに竹が生え、
竹、竹、竹が生え。
萩原朔太郎「月に吠える」 より
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今度はやぶちゃんに、「青くて猛々しい竹が枯れて茶色になってしまうと、なんか寂しくなるような気がするよね」と尋ねてみました。ところが、どうも茶色がきらいな訳でもなさそうです。
やぶちゃんがこれまでにつくった竹の作品には、おもちゃの「竹とんぼ、竹馬、水鉄砲、竹風鈴、竹笛、竹けん玉」などや台所用品の「竹コップ、竹スプーン、竹しゃもじ」などなど、そのほか装飾品や家庭で使う道具として「花立て、ししおどし、じざいかぎ、竹プランター」などなどなど、たくさんあります。作品の多くは、梨の木作品と同じように素材そのものを楽しむことができます。
ところが、この竹の素材を活かすことで、逆にマイナス面が出てくるというのです。
時間が経つとともに竹が割れたり、カビが生えたり、虫が入っていて知らぬ間にぼろぼろになっていたりと。
もちろんそれを防ぐ方法はあります。日陰で影干しをしたり、火であぶったり、苛性ソーダで煮たりするそうです。きちんと処理をすれば確かにいいものはできますが、そのための作業は、たいへん手がかかるようです。
“なんだよ、結局、手間暇かけるのがめんどくさいんじゃないの”
思わずつぶやいてしまいましたが・・・ |
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近年、里山の竹被害はものすごいそうです。何しろ、人がまったく立ち入ることができないくらい竹が山を覆い、更には近隣の敷地まで進入してくる勢いなのですから。
切ろうにも、そう簡単にはいきません。手作業だけでは無理で、重機を投入しなければなかなか処理できません。例えきれいに伐採したとしても、そのまま放っておけば、またすぐ元に戻ってしまいます。里山を守るためには、毎年定期的に人が山に入って、不要な竹を切り取ることが大切なのです。
やぶちゃんは、「竹製品は道具としてどんどん使うべきであり、古くなったらどんどん捨てればいい」と提唱しています。日常の生活の中に当たり前のように竹を取り入れることができれば、里山被害も少なくなるかもしれません。
廃棄物を増やすのでは? という話も聞こえて来そうですが、そういう問題ではなさそうです。もっとも地下資源でつくられた道具を使い捨てるよりは、環境にはずっと良いのではないでしょうか。
なお、これは工芸品やら民芸品の話とは少し違いますので、誤解のないようにお願いします。
“竹細工”は、飾り物や日用品として大切に使ってほしいです。そのためにも、カビが生えたり割れたりしないようしっかりと処理がされていますし、なによりも竹細工職人さんの想いがしっかりと込められた芸術品でもあるわけですから。
なしの木工房の竹の花立てに、花が生けてありました。
「花と青竹を楽しんだら、まとめて捨ててしまえばいいんだよ。新しい青竹は、いつでも手に入れることができるからね。」
竹は「使い捨て」で大丈夫です。山には、使い切れないほどのじゃまな竹がいっぱいあります。
萩原朔太郎の詩を感じる里山の姿を、なんとか取り戻したいものです。
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写真中央 砂丘で遊ぶための竹馬
写真右 二人で乗って遊ぶ竹馬
写真左 砂丘を歩く時に使う杖(竹ではありません) |
おやじのつぶやき 2012.3

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