ペンダント


クラフト工房「くりこ」 大橋美佐子氏 作品
 
 木のペンダントづくりは、木工工作の入門編です。
 最初に一枚の板材をつくり、その板材に穴を開けたり、切り込んだりして形を整えていきます。板をつくる元の木材が不整形であったり、虫が喰っていたりすると、なかなかうまく出来ません。ロスする板も相当数出てくることになります。

 さらにデザインを追求していくと、思い悩む時間も多くなって手が止まりますし、気に入らない作品はそのまま薪ストーブへ直行です。売れる商品をつくろうと考えると、普通は、このあたりで限界が見えてきて諦めてしまいます。
 やぶちゃんも、その限界に悩まされました。決して思いつきやいい加減な心構えで向かったわけではありませんが、それほどペンダントというのは奥が深いようです。
 
 鳥取県内にも、木工ペンダントの職人さんがいます。
 彼らの作品は、それはもう芸術です。その分、確かにお値段も高くなりますが、ダイヤやエメラルドといった貴金属ではありませんので、技術と芸術に価値を見出していただいた場合に商談成立となります。
 「木工の太田」太田建次さんの作品を拝見させていただきました。ほんとうにすばらしい作品でした。

 
「木工の太田」 太田建次氏 作品

  では、改めて一般的なペンダントの作り方を説明しましょう。
 まず、縦目の薄い板をつくります。次にその板を思いどおりの形に整形したり、穴を開けたりします。最後に磨いて終わりです、と、前述のとおり誰もが当たり前に考える手順です。

 梨の木は堅いため、横目の板でもできます。
 杉の木を横目の板にすると、肉厚にしてもパキンと割れてしまいます。杉の肌触りは最高なのですが、加工が限定されますのでたくさんのロスを作りながら製品をつくることになり、結果、びっくりするくらいの値段になってしまいます。

 このあたりから、ペンダントづくりが、ほんとうは難しい作業であるということが分かっていただけたと思います。
 基本は縦目の薄い板をつくるところからはじまりますが、木によっては縦目でなくても良いですし、薄い板づくりを切り出す作業を飛ばして、一挙に整形作業へ入る方法もあります。使う木によって作業の方法をどんどん変えることができますので、そのことによって様々なデザインが生まれます。
 すべては、経験がものをいうわけです。

 やぶちゃんは、木の堅さ、木目のとおり方や木の色、更には木の匂いなど、木の性質を知るには経験が一番だと信じていました。
 ある日、鳥取大学名誉教授 作野友康先生の講義を受ける機会がありました。
 勉強ぎらいのやぶちゃんですので、講義などというのはほとんど興味がありませんでしたが、先生の講義を聴く機会というのもめったにありません。
 久しぶりの机に向かってのお勉強でした。そして先生のお話に、ある種のショックを覚えてしまいました。
 先生の講義の中には、やぶちゃんが知らない科学的知識が盛りたくさんです。しかしそのことよりも、やぶちゃんが何年もかかって経験して覚えたものを、わずか90分程度の講義で片づけられたのですから、さみしさを感じるのも仕方がありません。

 若い人に忠告します。
 日頃から、きちんと学校で勉強をしましょう。
 そうすれば、実地体験の際に得られる知識や技術も一段と深まります。
 机上の勉強と実地体験の後先が逆になった、やぶちゃんの貴重な経験でした。


作野先生の講義を受けるやぶちゃん


 おやじのつぶやき 2012.11

おやじのつぶやきへ

 
<なしの木工房 HP へ>