コテコテの日本人であるおやじは、お風呂の湯船にたっぷりとお湯をためて入るのが好きだ。でっぱった腹でザーザーと流れあふれるお湯も気にせず、「あ〜極楽、極楽」と幸せいっぱいの時間を楽しむ。そして「1年間の出来事を思い浮かべる時季になったなぁ」と、何も浮かばないからっぽの頭をたたいてみる。
先日、ようやく福島第1原発事故の収束宣言が出された。東日本大震災や原発事故で地獄を体験した人たちのつらさ悔しさに思いをはせてみる。しかし直接我が身が傷つく災害ではなかったことを良いことに、贅沢(ぜいたく)にお湯を使い流している自分を見ながら、不謹慎さにまた一つ磨きがかかったと苦笑する。
「ゆく河(かわ)の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」
『方丈記』の冒頭の一文である。太古から延々と流れ続ける川は、今年日本人に大きなうねりを突きつけた。数々の悲惨な出来事は、決してうたかた(泡)として消してしまってはならない。世の常として忘れ去られることがわかっていても、その教えをきちんと未来へつなげていくことが、今の私たちの責務であることには間違いない。
今年の世相を表す漢字は「絆」。多くの日本人が、あらためてこの一文字の大切さを理解したことだろう。湯船に浮かぶ今にも消えそうな“うたかた”。おやじもゆく年を心に刻み、くる年に願いを込めたい。来年こそ、世界中が幸せな年でありますように。 |