イラスト ののはら りこ

 学生の頃、好きだった人に花を贈ってみたものの結局失恋し、私に花は似合わないと悟った。娘に庭一面に咲く三色の花がほしいとねだられ植えてはみたものの、色の配置のひどさに何度も植えなおしを命じられ、自分のセンスのなさ嘆いた。

 弁解する訳ではないが、「花を買ひきて【注1】」家族と楽しむことも嫌いじゃないし、「花も花なれ【注2】」と心静かに世を見据えたいとも思っている。残念ながら、美的感覚と花を愛でるという高尚な趣味の心が育たなかっただけである。

 鳥が運んできてくれたのだろうか、無粋おやじの殺風景な庭にも時々見知らぬ花が咲く。庭の片隅に根付いた白い花は、毎年時季を迎えると可愛い姿をみせてくれる。数年前、庭の崖端(がけばた)に黄色い花が現れた。雑草の間に咲く小さな花はそれなりに可愛く、来訪を歓迎した。しかし最初数本だった花は、あっという間に崖一面を埋め尽くしてしまった。そうなるとさすがに可愛くない。

 ある日、その花が道路ののり面にびっしりと生えていることに気づいた。小さな丘のほぼ全面を占領しているところもある。津波のごとく風に揺れる花をみて、その日我が家の黄色い花をすべて刈り取った。

 外来種による生物多様性喪失の話はよく聞く。そのきっかけの多くが人間の仕業であるとしても、自然の力に楯突くのはそう簡単ではないらしい。従って無粋おやじの仕返しは「絶対おまえの名前は覚えてやらない」だ。
 あいかわらず他の花の名前も覚えられないのだが。

【注1】石川啄木「一握の砂」
【注2】細川ガラシャ「辞世の句」
 
日本海新聞 ECO STYLE Tottori 2010.11.30掲載

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