早朝、まだ暗いうちに庭に出て、春の暖かい風に吹かれるのはたいへん気持ちがよい。清少納言を気取るつもりはないが、一日の始まりをゆっくりと楽しむのは幸せだ。しかしこの楽しみも、もうすぐ終わる。というのも、毎年夏になると、わが家の庭は一日中ヤブ蚊に悩まされる。

蚊取り線香や防虫スプレーを駆使しても、次々と現れるヤブ蚊の攻撃は秋まで治まらない。ヤブ蚊だけではない。クモ、ハチ、ケムシといった虫も毎年わが家を賑わしてくれる。まあ、彼らも地球に生まれた小さな命だからと、最低限の駆除に留めているのであるが・・・

気まぐれで買ったイチゴの苗に実がついた。膨らむ果実を観察する楽しみが増え、そして気がついた。雑草とイチゴの葉っぱに隠れた地面の上は、ムカデ、ナメクジ、ヤスデ、ゲジゲジと、見事な虫の王国が広がっていた。

私は足下を確認しながら歩くタイプの人間ではない。ましてや老眼になってしまった今、地面の虫の存在はどうでもよかった。しかしイチゴという新たな楽しみが、虫との格闘意欲をかき立てた。さっそく殺虫剤を買い込んではみたものの、春のあけぼのを楽しむ余裕など無くなり、やがて来るヤブ蚊の襲来にため息をつくのである。


 日本海新聞 2016.5.27掲載


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