穏やかな春の日、娘と二人で東郷池周辺を散策した。東郷池は、私の大好きな地である。朝もやがかかる池の畔をゆっくりと車を走らせると、映画「千と千尋の神隠し」のような世界に踏み込み、神々と出会えるような気になる。
日本神話に、葦原中国(あしはらのなかつくに)を平定するために高天原(たかまがはら)から遣わされたアメノワカヒコが神々の怒りを買い、最後は自分で射た矢を胸に受けて死んでしまうというお話がある。これはアメノワカヒコとオオクニヌシの娘シタテルヒメの悲恋物語であり、私はこの地こそ、その舞台だったと信じている。
宮戸弁天はシタテルヒメが恋文を送った所で、出雲山は二人が逢瀬をした所。そして難産に苦しむ女性たちを助け、二人が仲良く暮らしていた場所が倭文神社の地ではなかったのかと。鳥取県には他にも白兎神社、赤猪岩神社など日本神話にまつわる興味深い地が多い。きっと古代山陰は、愛とロマンがあふれたすばらしい地だったに違いない。
いつしかシタテルヒメに恋する色ボケおやじになって、うっとりと景色を眺めていた。娘はといえば、池に浮かぶ舟が気になるらしく、やけに熱心にしじみとりを眺めている。
「あれ、食べさせろ」
「なんだよ、お前は食い気かい」
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