草 木


 おやじが草木に興味を持ち始めたのは、最近のことである。以前は、木の枝を見てもチャンバラごっこの刀か薪くらいしか思い浮かばず、草にいたってはどれも同じ顔の雑草であった。そんなおやじの庭に、今、少しずつ草木が増えてきた。例えばカエデ。春のカエデの葉は形も色も初々しく、秋の鮮やかな紅葉が目に浮かぶ。

 一昨年、市内の河原敷で、子ども達と一緒にK先生の講義を受けた。カエデの葉は、カエルの手に似ていることから「カエルデ」と呼ばれ、それが転訛したとされていて、万葉集にも詠まれているとのこと。生きているカエルの手を広げながらの講義に感動し、おやじは庭にカエデの木を植えた。

 もちろん万葉集も紐解いてみた。
「こもちやま 若かへるでの もみつまで 寝もと吾(わ)は思ふ 汝(な)はあどか思ふ」
 子持山の若いカエデが紅葉になるまであなたと一緒にいたいと思うけれど、あなたはどう思いますか?という、なんとも情熱的な歌に、これまた感動したのである。

 かくしてK先生の講義のおかげで草木の面白さを知り、風流を覚え、朝早くから草木を愛でながら一句ひねろうとする俳諧おやじになった。しかし家族には、狭い庭をうろうろと歩いているだけの徘徊おやじにしか見えないらしい。

 
日本海新聞 2014.4.25掲載

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