イ ワ シ



 猛暑の夏がやっと終わったと思ったら、あっと言う間に冷たい風が吹き始めた。おやじは、猫よりわかりやすい習性により、すぐにコタツで丸くなる。未だ目の前にある扇風機を見ながら、
“近頃は季節の変化を楽しむことが無くなったな”と、横着を気候のせいにする。

 鳥取県水産試験場で、海の中にも環境変化があることを勉強した。レジームシフトといって、日本近海は温暖な年代と寒冷な年代が交互に現れ、今寒冷に向かっているとのこと。寒冷の海がもたらす幸の一つがマイワシ。漁獲量は来年3月にかけて平年を上回り、近年では最高水準となるらしい。

 20年ほど前のことを思い出した。イワシの大漁で、境漁港は平成4年から5年連続日本一の水揚げを記録した。我が家もイワシの刺身、煮付け、フライと毎日のように食卓に並べた。イワシの下処理は私の役目。律儀に包丁研ぎから始めながら、料理を楽しんだ。

 最近家庭で、あまり生魚の料理を楽しむことはなくなったようだ。その理由について水産試験場の研究員さんから明解をいただいた。「魚の下処理はおやじの仕事。但し、許されるのはゴミ出しの前日のみ。台所を汚したら当分不許可。嫌なら切り身を買うべし」と。
「あ、我が家もです」

 
日本海新聞 2013.11.25掲載

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