学生生活を終えて就職が決まった時、それまでの淡い夢に封をして目の前の現実と向き合うことにした。その時はそれほど深刻な気分でもなく、どちらかというと社会に足を踏み出す方の希望が勝っていたと思う。
しかし、毎日の慌ただしい生活と喧騒の中では、将来の夢を見たころの自分をいつしか忘れてしまう。たまにふっと思い出すことがあっても、幼さだったのだと理解し心を整理する。そして「人生ってそんなもんだよ」と妙に悟った口をたたくようになると、何故かもう一つ大人になったような気がして、そんな自分にまた満足してしまうのである。
いつも一緒に遊んでいる大学4年生の子どもたちも、そろそろ学生生活の仕上げに入る時期になった。既に就職を決めたちゃっかり屋もいれば、更に学業を積もうと進学を目指している学生もいる。入学したころに描いていた彼らの夢と現実の選択との差は、彼らの成長の証として笑って祝福してあげたい。
私はというと、人生の半ばを過ぎてそれなりの道を踏んできたつもりだったが、もう一度幼い時の夢を見るのもいいと思い、数年前にそれまで勤めていた仕事を辞めた。特別な想いのある夢や使命感を持ってではなく、子どものころの楽しさをもう一度味わってみたいというだけの理由であった。
娘 「今おとうさんは、どんな仕事をしているの?」
おやじ 「とっても難しい仕事。おべんとうを持って公園に行って、いろんな人を観察して・・・。」
娘 「はいはい。おしまい、おしまい。」
おやじ 「・・・・・・。」
追求の質問もなく、呆れた様子も見せない娘であるが、
娘 「でも、楽しそうだね。」
おやじ 「うん、楽しいよ〜!」
と、仕事に明け暮れたいたころとは違った会話を楽しむことができる親子となった。
若い友人が、夢を追いかけるため今の仕事を辞めるという。
船に乗って世界中を回り、ボランティア活動をしたいとのことだ。勇気ある彼の選択を褒めたいと思う一方、今の仕事をきちんと勤めれば苦労をしなくて済むものをと余計な心配をしてしまう。
どんどん難しく、ややこしくなってきた世の中である。
世間のざわめきに憶することなく、自分の道を堂々と選択していく若者たちに拍手を送りたい。
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