ノネナール(注)という物質をご存じであろうか。「加齢臭」、「おやじ臭」とも呼ばれる世のおやじにとっては屈辱的なにおい(臭い)の原因物質である。
確かにおやじは、年月を経た動物の証として発散するこの不飽和アルデヒドを、悲しい運命として受け入れなければならない。しかし「おとうさん、くっさあーい」と促音と長音を混ぜながら評する思春期の娘の言葉には思わずムカッとしてしまう。
ところが、ムカッとしないおやじのにおい(匂い)があることを知った。
家の中に閉じこもる子どもたちを外へ引っ張り出し、一緒に科学遊びや自然体験に興じるおやじたちの匂いである。この匂いは、一言二言交わす会話でビビッと感じ、一緒に酒でも飲もうものなら大激論を繰り広げるまでの力を発揮させ、ついには「おやじの会」という匂いの固まりへと変化する。
鳥取県中部のA氏が所属するH隊は、子どもの遊びを東郷湖の環境保全活動にまで繋げ、西部のN氏が所属するFおやじの会は、おやじと子どもの夢広場「プレーパーク」を造り上げた。
全国レベルになると更にこの匂いが強まる。香川のおやじは全国のおやじパワーを結集し、日本で初めての「全国おやじサミット」を開催。国際都市京都のおやじは「国際おやじサミット」まで風呂敷を広げ、「人種は違えどおやじはおやじ」と証明してしまった。広島のおやじに至っては、末期の肝臓ガンと戦いながら限られた命を暴走族やいじめで苦しむ子どもたちに捧げ、昨年(2007年)7月に亡くなられた。
各地の匂いの固まりは、地域のおやじネットワークへと進化を続け、ついには全国レベルの固まりへと発展する。東日本では元東京都副知事T氏が率いる「おやじ日本」、西日本では京都おやじの会連絡会(京都市)、さぬきおやじ連合(香川県)、ざ・おやじコミュニティ(福岡県)、とっとりおやじ連(鳥取県)などおやじたちのネットワークが中心となって立ち上げた「日本「おやじの会」連絡会」がそれである。
この匂いの固まりは、私には「あたたかい日差しを浴びながら大地にしっかりと根を下ろす春の息吹」のごとく感じるのであるが、思春期真っただ中の私のバカ娘は「春の日差しを浴びたために大地からにじみ出てしまったメタンガス」としか思えないらしく、今日も不機嫌である。 |