積み木であそぼっ!!

 鳥取木材工芸振興会は、財団法人鳥取県職員互助会のご支援をいただいて、平成24年度青少年健全育成活動「幼児の心身発達形成のための事業」を行いました。
 積み木の魅力は、積み木で遊ぶ子どもたちの姿を見ているとなんとなく理解することができます。「見てわかる」ということは一番手っ取り早い方法ですが、多くの人に知っていただくためには、それだけでは少し短絡的であるようにも思います。そこで、作野友康鳥取大学名誉教授、遠藤由美子鳥取環境大学准教授のご指導をいただきながら、積み木の魅力に迫ってみようと考えたのがこの事業です。
 結果、たくさんの発見がありました。また、パンフレットもつくることができましたので、これからどんどん積み木をPRすることができそうです。
 事業の報告がまとまりましたので、ご紹介します。




積み木であそぼっ!!
〜 幼児の心身発達形成のための事業 〜
 
1 事業の概要

 子どもたちは遊びを通して経験し、考え、何かを学んでいきます。子どもにとって「遊び」は「学び」とほぼ同じ意味をもっています。幼稚園教育要領(文部科学省)では、「周囲の様々な環境に好奇心や探究心をもってかかわり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養う」ため、「身近な物や遊具に興味をもってかかわり、考えたり、試したりして工夫して遊ぶ、日常生活の中で数量や図形などに関心をもつ」等の教育を求めています。その際「自然の大きさ、美しさ、不思議さなどに直接触れる体験を通して、幼児の心が安らぎ、豊かな感情、好奇心、思考力、表現力の基礎が培われることを踏まえ、幼児が自然とのかかわりを深めることができるよう工夫すること」としています。
 私たち鳥取木材工芸振興会では、この遊びに「積み木」を提案しています。従来の玩具や教材に使われている数個の「積み木」ではなく、鳥取県産材の「杉」で作った2,000個程度の積み木を用いて、身体全体を使って遊ぶものです。
 たくさんの積み木を使うことにより、楽しく遊びながら注意力や根気強さ、空間の前後左右上下の関係を把握する力や立体的な感覚を養うことができると考えています。最も重視しているのが、幼児の身体の大きさ以上になる大量の木材を使うことで、木と親しみながら遊ぶことができるということです。自然が豊かな鳥取に生まれながら、生活の中に自然を取り入れることが少ない現状ですので、このことにより自然の恵みを体で覚え、また鳥取県の自然のすばらしさを認識することに繋がると考えます。もちろん軽くて、手触りのよい杉の特性を活かした積み木ですので、危険度も一段と低くなっています。
 そこで、多くの子どもたちにこの積み木で遊ばせながら、子どもたちの心身発達形成に寄与しようと考えました。また積み木遊びは垂直方向の動きが中心となりますので、これを水平方向の思考へ展開させるため、子どもの遊ぶ行動を観察しながら積み木の改良を行いたいと考えたものです。

2 事業内容

(1)積み木の製作
 県産の間伐材(スギ)を使って、円柱体(直径6cm 高さ6cm)と立方体(一辺6cm)の積み木を合計2,000個製作しました。

(2)出前講座の開催
 鳥取市内の保育園において、合計3回の出前講座を行いました。

  ア 賀露保育園(鳥取県鳥取市賀露町北2丁目2−15)
   ・日 時 平成24年11月8日 15:00〜16:00
   ・参加数 年長組35人 年中組35人 先生6人

  イ 成器保育園(鳥取市国府町鳥取市国府町中河原33)
   ・日 時 平成24年11月29日 15:00〜16:00
   ・参加数 園児3人 先生3人 見学者 子ども1名 保護者1名

  ウ 成器保育園(鳥取市国府町鳥取市国府町中河原33)
   ・日 時 平成24年12月6日 15:00〜16:00
   ・参加数 園児3人 先生3人

 今回製作した積み木は、@材料に木を用いること、A単純な形態であること、Bたくさんの数をつくること、の3点に特徴があります。出前講座においては、特にA及びBの特徴がどのように園児の遊び行動に活かされるのかという点に注目しました。

 賀露保育園においては、年長組35名、年中組35名の2班に分けて遊ばせました。年長組の遊び時間が終了し、年中組と交代させようとしましたが、年長組の子どもたちは興奮状態ともいえる状態にあって熱心に積み木遊びをしていたことから、急きょ70名全員で遊ばせることにしました。注目すべき点は、共同作業が自然発生的に生じたことです。2〜3人の子どもたちが一緒に遊ぶことはよく見かけますが、多くの子どもたちが次々と自発的又は互いの呼びかけにより、同じ目的を持つ遊び(囲いをつくる等)に参加する姿が見られました。

 更に、最も期待していた遊び行動である空間を形成する行動が見られました。塔など積み木を重ねるだけの行動から空間をつくる行動へ発展することは、子どもたちの創造力を高める上で重要な要素であると考えていたのですが、「たくさんの積み木」によりこの行動を導くことができたことは成果であると考えています。また、このような空間的広がりの行動を求める際には、「単純な形態」の積み木が有効であるということも確認することができました。

 一方で、多くの子どもたちが参加することにより、気後れしてしまう子どもが出てしまうことも確認しました。最適な園児の人数、遊ぶスペース、積み木の数を設定することが重要であると思われます。


空間を形成する積み木遊び

 成器保育園は、賀露保育園と異なり、園児が3名と極端に少ない保育園です。
 子どもたちの行動で注目したのは、まず遊びを始めるきっかけでした。少人数の場合、積み木遊びの導入には、大人による多少の誘導が必要と思われます。保育園の先生と鳥取環境大学の学生が誘導を行いましたが、遊び行動が広がるまでの時間は、大人数の賀露保育園の場合と大きく異なりました。また、たくさんの積み木があるにもかかわらず少人数であったため、遊びきれない(空間的な広がりを求めるまでには至らない)という状況も見られました。

 子どもたちの動きが止まったり、遊びきれないような状況に置かれた場合、幼児教育においては指導者の誘導が重要とされています。しかし今回の積み木を使った遊びは、あくまでも個々の自発性、若しくは子どもたちのコミュニケーションの中で構築される創造性を重視しました。
 すなわち、大人の視点や指導を介することなく遊びという行動を誘因することにより、子どもたちの創造性をより高く発展させることを目的とするものでした。

 この点、少人数の子どもを遊ばせる場合、A単純な形態であること、Bたくさんの数をつくること、のみでは不十分であることが示唆されました。この課題を解決する糸口を、作野友康鳥取大学名誉教授、遠藤由美子鳥取環境大学准教授及び鳥取環境大学学生の協力による積み木の改良及び試作に見つけることができたので、以下に報告します。

(3)積み木の改良及び試作
 改良の視点は、色、形態等を変化させることにより、積み木の垂直方向への展開から、水平方向への思考の展開の可能性の模索です。既に大量の積み木を使用することで塔の様な形状を作る遊びから城壁の様な空間を作り出す遊び行動を確認することができていましたので、積み木遊びの中に更に空間的広がりを導くことを目的としました。


  
垂直方向の積み木遊び

  
水平方向への展開

  
形状の改良

  
色と形状の改良

 改良した積み木を用いた遊び行動については、今後事例を積み重ねていく必要がありますが、改良した積み木を相当数作成したとしても、従来の積み木遊びとの差違を求めることは難しいと思われました。また、積み木をヒモで連結したり、磁石を用いた新たな空間展開も模索しましたが、このような積み木による遊びは、空間的な広がりを求めるよりも遊び方の発展形と捉えることが適当と考えます。その際、積み木遊びをする年齢を考慮しながら積み木を与えたり、異年齢の子どもを混合して遊ばせる、大人による誘導を試みる、といった手法も必要となると考えられます。

    
独立して遊ぶ色つき積み木   ヒモで連結した積み木   磁石で箱と連結した積み木

 一方で、A単純な形態であること、Bたくさんの数をつくること、に視点を置いた積み木遊びを補足するものとしての価値が示唆されました。たくさんの積み木があっても遊ぶ環境により十分な効果が認められない場合において、これらヒモや磁石を使った積み木により遊びの幅が広がると考えられます。すなわち、子どもたちの「たくさんの積み木で遊ぶ」という欲求が薄れた場合に、これら改良した積み木により大人が介入することなく新たな視点を見つけさせ、子どもたちの自発的な行動を導き、創造性の発展を継続させようとするものです。
 例えば、立方体や円柱体でつくった構造物を主体とし、着色した積み木や形の異なる積み木を構造物の一部に加えることで、子どものイメージを膨らませるといった手法です。この場合、遊びの空間や遊ぶ子どもたちの人数と合わせて、改良した積み木の数を考えることが重要と考えます。

 これら行動が最も顕著に認められた事例が、積み木を入れる箱の改良でした。
 遠藤由美子准教授の指導により、積み木遊びへの興味を誘導することを目的として、猫をイメージした箱を製作しました。賀露保育園においては、園内に持ち込んだ時点から子どもたちの興味を引きつけました。また、積み木の後片づけを子どもたちに促した際、子どもたちは真っ先に猫の箱に積み木を納めはじめました。このことは、猫の箱が子どもたちの自発的な積み木遊びへの動機付けの一つとなっていたものと推察できます。

 このような手法は、おもちゃ等を販売したりPRしたりする際に、いかに商品のイメージを消費者に刷り込むのかといった手法と同じと考えますが、その効果が「後片づけ」まで影響するということは注目すべき事象であると思われます。

  

 更に成器保育園においては、これらの箱に子どもが入って遊ぶという事例が見られました。これは子どもたちの興味が、積み木遊びから積み木を入れる箱へ移ったということですが、前述のとおり子どもたちの動きが止まったり、遊びきれないような状況に置かれた場合において、子どもたちの積み木に対する視点を継続させる(創造性の育成のためのアプローチを継続させる)手法として考慮すべき事例であると思われます。

     

(4)木の勉強会の開催
 本事業の実施にあたり、参加者が共通の認識を持つとともに、本事業に協力をしていただく鳥取環境大学の学生の知識向上を目的として、作野友康鳥取大学名誉教授を招いて、木の特性等について勉強会を開催しました。
 ・日 時 平成24年5月24日 14:40〜16:00
 ・場 所 鳥取環境大学
 ・概 要 木の特性について

 本事業において、積み木の材料として木を採用することは、もっとも重要なポイントです。
 幼児教育において重要な学習手法である「さわる」という行動を考えた際、木で製作した積み木がプラスティックや金属には求めることができない大切な要素を持っていることを明確にし、保護者や保育園の先生方に知っていただくことが大切と考えます。
 経済の高度成長期の経験により、建築物の耐性、材料の加工性、低価格の追求、見た目の美しさ等の理由により木材の利用が大幅に減少し、また同様の理由で生活用具においても木の利用がほとんどなくなりました。現在、木の価値が再び見直されてきてはいるものの、まだまだ不十分と思います。
 積み木の場合、前述のとおり「子どもがさわる」ものとして、木はもっとも大切な素材であると考えます。その理由として、@木の繊維間に含まれる空気により熱の伝わり方が生物的であるといった例のように、自然が持つ構造のすばらしさを体験から理解できること、A体育館の床材に木を使うことによって運動がスムースになるといった例のように、人間の活動をサポートする大切な意義を有していること、BVOC(揮発性有機化合物)など過去に経験した化学物質による被害を排除できること、などが上げられます。
 保育園の先生方や保護者がこれらの知識を知ることにより、子どもたちにとって木で製作した積み木が遊び道具の材料として最適であることを理解していただきたいと思います。
 なお、木の知識についての重要なポイントは、作野友康名誉教授及び遠藤由美子准教授の監修により作成したパンフレットにまとめ、今後普及啓発に利用することとしました。

3 まとめ

 たくさんの積み木を用いた遊びが子どもたちの創造力の育成に寄与することは、今回の事業で十分に確認することができました。一方で、@毎日たくさんの積み木で遊ぶことができる環境を整備し、経験を重ねることによってより創造性を高める行動を誘導すること、A積み木及び付帯道具の改良の必要性が示唆されました。

 @の環境整備については、保育所などの予算的措置が伴うものであること、また先生方の積み木遊びに対する理解が必要であることから、普及啓発などを通じて理解を求めたいと考えます。
また、Aの積み木及び付帯道具の改良に際しては、子どもたちの自発的な遊び行動が更なる空間的な広がりへと繋がるよう、今後検討を重ねたいと考えています。

 最後に、本事業にご支援をいただきました財団法人鳥取県職員互助会、多大なるご指導を頂きました作野友康名誉教授及び遠藤由美子准教授に深謝申し上げます。




おやじのつぶやき 2013.5

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