ペーパーナイフ
 

 ペーパーナイフって、最近はほとんど使いませんね。
 手紙が入った封筒やら、袋綴じがついている本や雑誌を開く時に使う、あのペーパーナイフです。我が家に舞い込む郵便物には、ペーパーナイフを使って大切に開けなければならないようなものはありません。ダイレクトメールとか、見たくもない請求書とか。
 袋綴じが付いている雑誌も、何十年も買ったことがありません。艶っぽい雑誌にはよく付いていましたが、その類の雑誌にはまったく縁が無くなりました。よくよく考えてみれば、ペーパーナイフを使って大切に開く・・なんていう作業は、もう無くなってしまったのかもしれません。

 やぶちゃんから何種類かのペーパーナイフをいただき、机の引き出しには入っていますが、無くて困ったことはありません。でも、木工芸をされている人たちにはお馴染みの作品となっているのが、このペーパーナイフです。

 ずっとずっと若い頃に体験したような気がします。きちんとした文字で書かれた私宛の手紙が届いた時、誰も見ていないのにこそこそと自分の部屋に隠れ、わくわくしながら大切に封を切りました。もちろん私が書いたラブレターの返事です。きちんとした字で、きちんとお断りの文字が並んだ手紙は、ほろ苦い青春の思い出でした。
 駄目ダシの手紙は、当分の間、私の大切な宝となりました。そこに書いてあった内容はすっかり忘れてしまいましたが、何故かほんのりと甘い文字に見えたように記憶しております。
 もしその時にペーパーナイフを持っていたら、きっとペーパーナイフへの愛着はもっともっと深まっていたに違いありません。

 やぶちゃんからいただいたペーパーナイフは、梨の木でつくられた味わいのあるペーパーナイフです。ペーパーナイフというものは、きっといろいろな人の想いが詰まった手紙を開く度に、味が深まるものなのでしょう。今の時代、自筆の手紙をもらうことなんてありませんね。せいぜい年賀状にある短い近況報告か、娘からの「金送れ」メモ程度です。
 携帯メールの時代は、なんとなくさみしいです。絵文字やイラストで自分の気持ちを片づけてしまう訳ですから、自分の文字でラブレターのような大作品をしたためるようなことはなくなりました。

 それどころか、毎日コンピュータとにらめっこをし、コンピュータが選んでくれる文字を並べているだけの私は、簡単な漢字さえも書けなくなってしまいました。自分の文字で想いをしたためるなんて作業は、もう絶対できません。いつもノートを持ってメモは残すようにしていますが、他人には、いや自分でも読めないミミズが這っているだけです。


白樺の木
 はてさて、ペーパーナイフは無用の時代となってしまったのでしょうか。
 やぶちゃんからおもしろい話を聞きました。やぶちゃんが北海道富良野を旅した時の話です。宿のおばちゃんと白樺の木の話になりました。やぶちゃんが木工をしていること、梨の木の魅力はもちろん白樺の魅力についてもお話ししたところ、おばちゃんとすっかり意気投合してしまいました。白樺の木片がほしいとお願いをしたら、後日、このおばちゃんがなしの木工房に送ってくれました。

 白樺の木は、やぶちゃんの思ったとおりの素材でした。北国に育った白樺の木は、やわらかくて暖かい木でした。
 木工作業をしながら口ずさむ歌も、「しらかば〜 あおぞ・・・」

 白樺の木をいただいたお礼に、おばちゃんにペーパーナイフを含めていくつかの木工作品を送ったところ、たいへん喜ばれたそうです。そのお礼として送っていただいたアスパラは、甘くて柔らかい北国の味でした。
 鳥取県の梨の木と同じく、北海道では白樺の木の使い道がなかなか見つからないとのこと。この木のすばらしさも、多くの人に知っていただきたいものです。

 いい道具というのは、ほんとうに味わいのあるものです。「便利なもの」と「道具」は、必ずしも同義ではないことをささやかに主張したいものです。

白樺の木でつくったペーパーナイフ
おやじのつぶやき 2012.1

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