キツツキ
 

米子こどもの科学教室2011

 キツツキというおもちゃの存在を知ったのはいつ頃だったのでしょうか。私は、まったく覚えておりません。でも、確かに幼い頃、キツツキのおもちゃを持っておりました。たぶんお祭りの夜店などで両親に買ってもらったのだと思います。
 久しぶりに見たキツツキは、木工作家やぶちゃんの木工工作でした。
 どこにでもあるようで、なかなかお目にかかれないおもちゃを久しぶりに見ると、とてもなつかしく感じますし、心の片隅に潜んでいたささやかな記憶を呼び起してくれるようで、ほんわかとした気持ちになります。

 昨年、わかとり科学技術育成会が主催する科学教室イベントに、このキツツキのおもちゃづくりを出展してくれました。針金を曲げてバネをつくり、その先にキツツキのおもりをつけて細い棒にとおすと、カタカタと揺れながらゆっくりと降りていきます。そのユニークな姿に、大人たちも思わず見入ってしまいます。きっと本物のキツツキを見たことがない人でも、キツツキはこんなふうに木をつつくのだなと思ってしまうのでしょうね。(本当は首だけを動かして木をつつきます)

 科学教室ですので、このキツツキの動きについて科学的に説明してあげなければなりません。しかし、一生懸命遊ぶ子どもたちがそんな話を聞いてくれるわけもありません。「わ~ おもしろい」と奇声をあげて喜ぶだけです。でもそれが科学入門の一番大切なところですので、私たちも一緒になって「わ~」と奇声をあげてしまいます。

 と、書きましたが、子ども科学教室の出しモノを科学的に説明するのは、本当に難しいのです。キツツキの場合、位置エネルギー、重力、まさつ、バネによる振動など物理の話が必要となります。うまくカタカタと降りていくバネをつくるためには、ばね定数などの話も必要なのかもしれません。
 当然、私たちにはとても説明できません。従って、子どもたちと一緒に遊んでごまかす・・・ということになります。
 もちろん勉強ぎらいのやぶちゃんも、この手の話は苦手です。

 私 「でも科学教室だから、少しくらいは物理の話もしなければいけないんじゃないの?」
 やぶちゃん 「難しい話は舌を咬む。あんたが話をしんさい」
 私 「・・・ じゃあ、学校の先生に話をしてもらおう」
 やぶちゃん 「断られた。子どもへの説明は難しいんだって」
 私 「難しいものを、わかりやすく教えるのが勉強でしょ?」
 やぶちゃん 「つくって遊べば、体で覚える!」
 私 「あ! そぅ・・・だね」

 そうなのです。
 難しい物理を理解するには、まずは体で理解することが一番なのです。理論や数式は、実験という手法で証明されますので、子どもたちには証明から入ることが一番です。どのみち、位置エネルギーや重力の話は中学校や高校で習うことでしょうから、その時に先生方にバトンを渡すこととして、今はたくさんのおもしろい証明を体験してほしいものです。

 何の証明かですって?
 位置エネルギー、重力、まさつ、バネによる振動などの証明です。もっと具体的にいえば、高いところにあるものは落ちる、何かがひっかかっていれば簡単に落ちない、そこにバネの力が働けばおもしろい落ち方をする、といった証明です。
 「子どもたちには、そんな証明は分らない」と思われる方がいたら、とりあえず「宿題」としましょう。

 さて、先日やぶちゃんは、とある高校の「発達と保育」という授業でキツツキの工作を教えてきました。この科目は、子どもの発達や成長とか家庭生活の充実などを学ぶカリキュラムのようです。やぶちゃんは、生徒たちに木工おもちゃのつくり方を体験させたわけですが、さて、その反応はといいますと、先生もやぶちゃんも(もちろん私も)びっくりの結果でした。

 

米子こどもの科学教室2011

 以下、生徒さんの感想文を引用しながらお話します。

 まずは、おもちゃの入手方法についてです。
・自分であのような本格的なおもちゃをつくったのは初めてだった
・最近では、おもちゃは買う時代だから、弟にも昔の文化なども教えてあげたい
・小さい時は、ほとんどおもちゃは買ったものばかりでした。それがあたりまえだと思っていました

 そういうことです。「おもちゃは買うもの」というのが今の世です。
 親がつくってやる、自分でつくってみるという機会は、ほとんどないといってよいでしょう。やぶちゃんも、やぶちゃんのグループも、イベントなどではよくおもちゃづくりをしています。でもイベント会場ですから、工作のほんのさわりだけの場合が多いです。「つくる」という実感を得るまでには、まだまだ工夫が必要なようです。

 その「つくる」という実感の部分についての話です。
・けずる事一つにも「子どもがケガをしないように」といろいろな工夫がしてありました
・バネの巻き方も実は難しくて、巻く人や巻き方によっても動きが一つひとつ違うことにびっくりしました
・バネの巻き方で降りる動作が変わるので「すごいなあ」と思いました
・穴をあける作業とかがあって難しくて怖いイメージが強くて、作業するのが正直ちょっといやだったけど、実際にやってみたらそうでもなくつくるのが楽しかったです
・意外と単純な作業で楽しみながらつくることができました

 そういうことです。
 これは、これまで何回も経験してきたことですが、皆、普段体験していないことは難しくて怖いものなのです。ほんの少しだけ手をさしのべてやれば、簡単だということが直ぐに理解できます。
 「子どもの科学離れ、理科離れ」というのも、同じことです。子どもたちは科学や理科から離れたくて離れるわけではありません。体験する(体験していると自覚する)機会が少ないだけです。そもそも科学や理科が苦手な親が多いわけですので、子どもたちから「体験する大切な場」を奪っているといっても過言ではないと思います。
 そして先ほどの「宿題」の答えもちゃんとありました。バネの巻き方でキツツキの動きや降り方が変わってくることをちゃんと勉強しています。証明とか理論とかという難しそうな単語を差し込まなければ、なんの抵抗もなしにすっと理解できるのです。

 最後に一番大切な部分です。
・家に帰ってから、2歳の甥っ子と1歳の姪っ子と一緒に「キツツキ」で遊ぶと楽しそうに笑って、何度も何度も遊んでいました
・家に持って帰ると、2歳の弟が遊んでくれました。「たか~い、おさるさん 降りてくるよ」などと言いながら笑顔で楽しそうに遊んでくれて、とっても嬉しかったです
・自分でつくったおもちゃで喜んでいた妹の笑顔を見て、うれしいと感じました
・完成したおもちゃを家に持って帰ると、木を使った手作りということで、親が喜んでくれました

 本当に、そういうことです。
 ものをつくるという楽しさは、自分が体験する楽しさであり、家族や友達を楽しませるという楽しさでもあります。人が楽しむ姿を見て、ますます自分も楽しくなるということは、ほんとうに大切なことです。
 こんな快感をたくさん覚えた人間が、悪くなるはずはありません。今問題になっているいじめなどといった愚劣な行為は、心から人と一緒に楽しんだり遊んだりする経験の少ない子どもたちではないでしょうか。

 ここに、もう一つおもしろい要素が隠れています。
 高校生は、既に子どもたちに豊かな感情を教えることができる年齢になっているということです。ここが高校教育に「発達と保育」という科目を取り入れている所以なのでしょうが、やぶちゃんの講義は、まさにその教育目的をしっかりと達成したものだったということです。

 やぶちゃんは、講義の後つぶやいていました。
 「科学遊びやものづくりを教える人は学校の先生やその道のプロがいいと思っていたけど、高校生たちが、一番合っているのかもしれないなぁ」

 私たちは、科学教室でも同じことを経験しました。
 科学教室は、学校の先生やら地域の保護者が先生になって、子どもたちに科学遊びを教えています。その先生の中に高校生を補助員として参加させています。
 子どもたちを教える時の彼らの目は、ものすごくイキイキとしています。「教える」という行為には「教えられる」という学習効果も潜んでいるというのは、よく言われることです。教えることと教えられることというのは一体のものであり、何も学校の話だけでなく、人生そのものの勉強手法でもあるように思います。
 高校生たちに、この好循環となる授業をどんどん受けさせてやれば、もっともっと心やさしくてすばらしい大人になるに違いありません。

 高校生の年齢は、15~18歳。昔ですと元服の年齢です。
 昔の人が、この年齢で成人となると考えたのは、正しかったのかもしれません。能力は、使わなければ衰えてしまいます。今彼らが持っている能力をきちんと見つけて評価し、もっともっと伸ばしてあげたいと思うのですが、大学受験、就職戦争と、なかなかうまくいかないのが現実なのでしょうね。


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