肩たたき

 木の板にある節には、生節(いきぶし)と、死節(しにぶし)があります。
 枝が枯れてしまい、その後残った部分が木の成長部分に包み込まれてしまうと、腐ってポロリと抜け落ちる死節になります。きちんと枝打ちをすると、枝は生きたまま包み込まれますので、抜け落ちるようなことはありません。これを生節といいます。
 残念ながら、死節のある木の板は価値が半減します。死節があるからといって、強度が極端に落ちるわけではないようです。見た目の問題らしいですね。

  
生節           死節

 私は、自然の中での創作物だと思いますし、見た目だけの話であれば、それはそれなりに味わいがあるように思います。
 そうはいっても、人それぞれの感覚の話ですので、場合によってはきちんと死節の処理をしなければなりません。やぶちゃんも木工作品をつくる場合、死節の処理を求められる場合があります。その処理をするため「フシ太郎(商品名)」という道具を買いました。

 まずドリルで死節に穴をかけて、死節を取り除きます。
 次に開けた穴より少し太くて丸い棒の先を、鉛筆削りの要領で削ります。この鉛筆削りをする道具がフシ太郎です。
 フシ太郎処理の鉛筆を死節の穴に入れ、木槌でたたくと鉛筆がしっかりと穴をふさぎます。穴からでっぱった部分をのこぎりで切り落とし、カンナなどで表面をきれいにして死節処理の完成です。
  

 ここでのお話は、死節処理のお話ではありません。肩たたきです。
 大型鉛筆削りのようなフシ太郎を使った死節の処理は、思った以上にしっかり出来上がりました。「これは使える」とひらめいたやぶちゃんは、さっそく梨の木の枝と幹を使って肩たたきをつくってみました。肩たたきの柄は、梨の木の枝の素材をそのまま活かすことができます。

 しかし残念ながら同じ製品をつくることはできません。
 売り物にするならば、一番使いやすい形や大きさを追求しなければなりません。少し考えた後、同じモノでなくて良いという結論を得ました。理由は簡単。決して同じモノができないということだったのです。

 あるイベントで、数本つくって店頭に並べてみました。
 来られたお客さんは、実際に手にとって肩をたたいてみます。おもしろいことに、どのお客さんも肩をたたいてみます。そしていろいろな肩たたきを試した後、「これがいい」といって買い求めてくれました。

 まさか売れるとは思っていませんでした。
 売れた品物がどんな形でどんな大きさだったのかも、よく覚えていませんでした。
 まあいいか・・・ということで、次のイベントではもっと本数を増やして置いてみました。お客さんの反応は同じです。いろいろな形の肩たたきを試してみて、「これがいい」と選ぶのです。その時わかったのは、「これがいい」と選ばれた肩たたきは、決して同じ形や大きさの肩たたきではなかったということです。もちろんデザインの善し悪しだけでもなさそうです。
 
 必ずしも、皆が同じものを求めているのではないことがわかりました。
 そこで、柄の形はもちろん、柄の長さや太さ、全体の重さなど様々な肩たたきをつくって店頭に並べることにしました。良く売れるというわけではないのですが、ぽろぽろと買ってくれるお客さんがいました。

 原因はよくわかりませんが、どうやら手にぴったりとくる肩たたきというものがあるようです。人によって、自分に合う柄の長さや太さ、重さというものがあるように思います。肩の凝っている場所が違っているのかどうかはわかりませんが、腕の力や身体の大きさなどが関係しているのかもしれません。

 無理をして同じ形の肩たたきをつくる必要はありませんでした。つくろうと思ってもつくることはできませんが、そのことが逆におもしろい結果を生むことになりました。特に力を入れてPRしたわけではありませんでしたが、なしの木工房でいちばん良く売れる品物となってしまいました。
 


おやじのつぶやき 2012.1

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