木の自動車・ティシュケース
 

 やぶちゃんの木工教室は、木に触れるというところを基本にしていますので、サンドペーパーで木を磨いたり、ボンドでくっつけたりする作業が中心です。しかし木工の醍醐味は、やはり木工道具を使うところにあるのは間違いありません。

 木工に使う道具や機材の正しい知識を知らなければ、けがをしてしまいます。子どもたちには早いうちに道具に慣れさせることが大切だと思うのですが、保護者の方も慎重になり、その結果子どもたちは木工から離れてしまうのだと思います。

 よく「近年の子どもたちは理科離れが進んでいる」という話を聞きます。これは、理科が得意でない大人が多いため、子どもに理科の楽しさを教えていないところに問題であるからだと思っています。木工の場合も同じですね。けがをしてしまうからという理由で木工道具から子どもを離してしまうところに、大きな問題が潜んでいるのではないでしょうか。

 さて、木工道具や機械を使う楽しさに少しでも触れさせたいと考えたのが、「木の自動車」です。これをやぶちゃんの木工理論で整理をするならば、身近に置くものテーマとして「ティシュケース」、木をサンドペーパーで磨くことにより手で触るという事を基本とし、年に応じて道具を使うことも追加し、完成したら「使う」と「遊ぶ」を実践できるものとしました。ティシュケースでありながら、自動車のおもちゃでもあるわけです。

 当初、使う機械として糸のこを考えていました。鳥取大学の学生さんを実験台にして、実際に工作をしていただいたのですが、かなりの時間が必要だということがわかりました。機械を使えるようになるまでの時間もそうなのですが、それまでに自動車の構想づくりにかなりの時間を費やすというおもしろい行動も確認できました。これは当然のことだろうと思います。設計やデザインは、工作とは別の世界の楽しさおもしろさがあるからです。

 そこで糸のこの使用はやめて、“のこぎり”と“くぎ”、“かなづち”を使う程度に加工しておくこととしました。小学校低学年の場合は、“のこぎり”もやめて、“くぎ”と“かなづち”だけを使うことにしました。
 小学校低学年を対象とした木工テーマでも、道具をつかうことにより、中学生でも高校生でも楽しむことができ、またテーマを身近なものに置くということで、大人も子どもも楽しむことができるキットとなったのです。

 この木の自動車は、鳥取大学が主催する「ものづくり道場」の教材の一つとして完成させました。ものづくり道場は、子どもたちがものづくりに秘められた知恵やおもしろさ、奥深さに接しながら、ものづくりの技を学ぼうとする意欲や関心を育むために、地域で活動するリーダーを養成することを目的としたものです。やぶちゃんのいう「遊びの場」とは若干趣旨が異なるものの、子どもたちにとってはどちらも楽しい工作の場づくりであることは間違いありません。


ものづくり道場指導者養成講座
木の自動車のつくり方

■ 材料:木の自動車キット
    

■ 使用する道具
 ・かなづち、げんのう、指金、サンドペーパー、くぎ、ボンド
 ※ 糸のこやのこぎりは年齢を考慮して使用を考える。

■ 手順
 @ 車の側面及び前後の面の板に好みのデザインを描き、切り取る。
  ※ 子どもたちに教える場合はデザインは取り入れない。切り取りも年齢を考慮して決める。
 ・釘を打ち付ける場所、車輪をつける際に隠れる場所を考慮してデザインを決める。
 ・木表が自動車の外側になるよう、デザインを決める。




 A すべての板をサンドペーパーでみがく。
 ・接着面もサンドペーパーでみがくと、きれいに仕上げることができる。
 ・サンドペーパーでみがいた後、出てきた木の粉をはけ等で取る。
  きれいに取らないと、接着剤で接着することが難しくなる。




 B 底面の接着面にボンドを塗り、側面の板をくぎで打ち付ける。
 ・前後の板の張り付けを確認しながら、接着面を確認する。
 ・ボンドを塗った後、瞬間接着剤を少し塗ると、早く接着する。
 ・接着剤もボンドも、多く塗ると逆に固まるのが遅くなるので要注意。
 ・また、多く塗ることにより接着時にボンドがはみ出し、仕上げがきたなくなる。

 C 前板と後板を同じようにくぎで打ち付ける。



 D 底板に、車軸受けをボンドで取り付ける。
 ・ボンドが乾かない間に車軸を通して、車輪がスムーズに回る位置を決める。


 

 E 仕上げ
 ・全体の角をサンドペーパーで磨く。
 ・全面のライト部分をボンドで接着する。
 ・車軸をとおして、タイヤを差し込む。


完成品


 ものづくり道場は、子どもたちにものづくりを教えるリーダーを養成することを目的としています。そこで、この木の自動車に潜む木の知識についても、鳥取大学名誉教授作野友康先生に教えをいただきながら探ってみました。
 どの木の知識も工作を楽しむためのおもしろいネタとなります。年齢に応じて、雑談程度の話題としてお話するだけで、おもしろさにずっと広がりがでてきそうです。

<木の工作を楽しむために>
 【指  導】作野友康先生(鳥取大学名誉教授)
 【参考文献】ものづくり木のおもしろ実験(海青社)

1 木の香り
 つくったばかりの木の自動車キットには、木の香りがします。木の種類により香りも異なります。香りの成分はモノテルペン類といい、この香りを嗅ぐことにより集中力が高まるなどの薬効効果があると言われています。

2 温かい木と冷たい木
 さわると温かく感じる木と冷たく感じる木があります。これは木材の熱伝導率の差によるもので、伝導率の大きい方が小さい方に比べて冷たく感じます。熱伝導率の大小は、木の密度とほぼ相関関係にあり、シラカシなど重い木材は冷たく感じ、キリなどの軽い木は温かく感じます。 木の自動車の材料には、あたたかく感じる木を使うことにしています。

3 木の模様
 木の模様の構成要素には、色、年輪、面の三つの要素があります。既に自動車の形となっているキットでは、個々の要素のお話をすることは難しいのですが、十分に楽しめる話のネタとなります。

(1)赤い板と白い板
 同じ木からとれる板でも、赤い部分と白い部分があります。樹心(木の中心)の周りの赤い部分を心材(しんざい)又は赤味(あかみ)と呼びます。その外側の白い部分を辺材(へんざい)又は白太(しらた)と呼びます。


(2)年輪
 1つの年輪内で色が薄い部分を早材(そうざい)と呼びます。春から初夏にかけて成長した部分で、春材(しゅんざい)とも呼ばれます。色が濃い部分は晩材(ばんざい)と呼び、夏から秋にかけて成長した部分です。夏材(かざい)とも呼ばれます。早材と夏材を合わせて1年輪と呼び、木の年齢を知ることができます。

(3)板の面
 木を切る部位や切る方向によってできる板の面には、木口面(こぐちめん: 木材を繊維方向に直角に切った時の断面)、板目面(いためめん:丸太の中心からずれた部分の断面で竹の子を縦に割ったような模様が見える面)、柾目面(まさめめん:丸太の中心に向かって切り取ったときに表れる年輪が平行な面)があります。

4 木の表と裏
 樹皮に近い側を木表、樹心に近い側を木裏と言います。板目板は、木表と木裏がはっきりしており、乾燥すると木表側に反る傾向があります。柾目板には、木表木裏がほとんどないため割れにくく、狂いにくいといわれています。木の自動車の側板を組み立てる際には、木の裏表のことを知っておかなければなりません。

5 木の膨らみと縮み
 木材は、水を吸収しやすい性質を持っています。ふすまや障子(しょうじ)が梅雨時に開きにくくなるのは、木材が大気中の水分を吸収して膨張するためです。冬は逆に木材の中の水分を大気に放出します。木材の繊維方向、半径方向、接線方向に収縮する割合は、1:5:10です。木の自動車には直接関わらない話ですが、木造建築の家の快適さなど木の良さを説明する際にはよく使っています。

6 背割り
 樹皮の方に近いほど伸び縮みが激しくおこることから、木材の中心に樹心がある心持ち材は、乾燥が進むと表面からひび割れを起こします。そこで四方面にひび割れが出ないように、予め木材の中心まで切れ目を入れておき、1ヶ所で木材の伸縮を調節するようにします。この中心まで入れた切れ目を背割りと言い、木の自動車のタイヤ部分にこの背割りを入れています。

7 節(ふし)
 節には生節(いきぶし)と、死節(しにぶし)があります。枝が生きたまま包み込まれたのが生節、枝が枯れてから包み込まれたのを死節といい、ポロリ抜けと抜け落ちることがあります。木材は、全く節の無い材は「無節」といい高級品として珍重されますが、木の表に節が見えないだけであり強度が変わるわけではありません。木の自動車キットに死節があると子どもに嫌われて最後まで残ることがありますが、きちんと説明すると納得して使ってくれます。


おやじのつぶやき 2012.1

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