音 楽
  


歌の上手い人がうらやましい。正真正銘音痴の私は、しらふの時に人前で歌を披露することはない。学生の頃は髪を肩まで伸ばし、ツギハギのジーンズをはいてフォークギターを叩きながら怒鳴っていた。若気の至りとはいえ、まとめて風呂敷に包んで捨ててしまいたい記憶である。

楽器を演奏できる人がうらやましい。音を自由に操る人はどこか超人的だ。歌や楽器の音色で感動という精神的感覚的変動を得る活動を音響芸術というらしいが、凡庸な私にとっては、楽器の演奏ができる人は皆芸術家だ。

先日、楽器店が主催する音楽教室の発表会に行った。特段興味があったわけではなく、孫に囲まれて暮らす私の姉が練習成果を発表するということでの鑑賞だった。そして子どもさんのドラムのリズムに、若い男性のハーモニーや女性のバイオリンのメロディーに、もちろんわが姉ロックンロールばあちゃんのエレキギターにすっかり魅了されてしまった。

何よりも練習成果を披露される皆さんの楽しそうな姿がうらやましい。そうなると私も指をくわえているだけでは寂しくて、ほこりを被ったギターを引っ張り出してみた。しかし改めて自分の発する音が騒音だと理解し、結局またほこりを被ることになったのである。


 日本海新聞 2018.6.29掲載


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