ひょう   たん
瓢  箪




 東郷池の畔に「水郷」という旅館がある。玄関を入ると、金や朱色のたくさんの瓢箪(ひょうたん)が出迎えてくれる。更にロビーに進むと、奇妙な形をした瓢箪や、細かい模様が刻まれた瓢箪が並んでいる。瓢箪は昔から、除災招福のお守りや魔除けとして珍重されていたらしい。

 そういえば足軽から天下人になった豊臣秀吉は、戦に勝つごとに馬印の瓢箪を一つずつ増やし、やがてそれが千成瓢箪と呼ばれるようになった話は有名である。「瓢箪から駒」は、ありえないことが起こるという諺。瓢箪を眺めていると、なにやら大きな夢が膨らみそうだ。

 旅館のご主人に「たくさんありますね」とお聞きしたところ、「まだまだありますよ」とのご返事。無理を言って見せていただいてびっくり。大きな布の袋に大小の瓢箪がぎっしりと詰められ、山のように積まれていた。

 何故こんなにたくさんあるのですかと尋ねると、この旅館の初代ご主人が瓢箪で街おこしをしようと考えられたとのこと。きっとこの地に幸運や財運を溢れさせようとの戦略だったに違いない。何かと難しい世の中で、地方が抱える課題は多いと聞く。初代ご主人の想いを浮かべながら瓢箪に願った。「この地に夢や願いが千個叶いますように!」



 日本海新聞 2015.8.28掲載

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