宇  宙


 あいかわらず煙草を辞めることができないおやじの喫煙場所は、寒空の下である。でも、きれいな月を眺めながらの一服は悪くはない。そういえば、皆既月食やスーパームーンの天体ショーもすばらしかった。煙草をふかしながら透きとおった夜空を眺めていると、下手な雑念など消え去ってしまう。

 雑念が消えると、楽しい妄想が生まれる。例えば月に住んでいるかぐや姫が、突然おやじの前に現れるといったふうに。神秘的な宇宙に心を置けば、かぐや姫がタコ足の宇宙人であったとしても、間違いなく恋に落ちてしまいそうだ。

 欧州宇宙機関の彗星探査機が、10年の宇宙の旅を経て彗星に到着した。星といえば、星の王子様である。おやじの妄想は、もの悲しい顔をした純粋な心を持つ少年との出会いへ発展する。きっと王子様は、雑念だらけのおやじを説教するだろう。「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ ※注」と。

 そうなんだよねと納得しながら、おやじの心はしばらく宇宙を漂う。そしてもう一本煙草を取り出したところで、寒風が妄想も雑念も吹き飛ばした。寒さに宇宙どころかあの世を漂ってしまいそうだ。だから煙草も辞めないと・・・

 注 サン・テグジュペリ 星の王子様より

 
日本海新聞 2014.11.28掲載

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