サメはいかが?

イラスト ののはら りこ

 厳しい経済情勢が続いているが、それでもやはり日本は豊かな国であると思う。その証の一つが、食料事情だ。国連食糧農業機関(FAO)は、2010年の飢餓人口は9億2500万人と報告している(年次報告書 2010)。また、同機関のジャック・ディウフ(Jacques Diouf)事務局長は、「栄養不良に関連した問題で6秒に1人子どもが死亡している。飢餓は世界最大の悲劇でありスキャンダルであることに変わりはない」と述べている。

 その一方で、日本国内で食べられることなく廃棄されている食糧は、年間で1,380万トン。全世界で食糧援助にまわされている量の1.7倍にもなるとみられているとの報告もある(エコロジカル・フットプリント・レポート 日本2009)。しかも日本の食料自給率はカロリーベースで39%(平成22年度 農林水産省)。多くを海外からの輸入に依存していながら、また多くの食料が廃棄されている状況を考えると、豊かすぎる国といっても間違いはなさそうだ。

 私は常々、究極のエコライフスタイルは食生活の中にあると考えている。現代の食生活は、食材の採取、加工、流通、販売、廃棄といった一連の過程でたくさんのエネルギーを消費している。例えば地産地消であるが、これが進めば大幅なエネルギーの節約に寄与することができるのではないかと。
 こう書いてしまうと、必ず食品産業の発展を阻害するとか、従事者の雇用問題などの議論を招くこととなるが、行き過ぎた経済発展の陰に見える“もやもや”は、必ずしも人間にとってプラスにはならないことを多くの人が感じているに違いない。

 エコとは、エコロジー(生態学)のエコ。
 一口に生態学といっても、手法や研究対象などにより生理生態学、行動生態学、植物生態学、都市生態学、景観生態学など様々な領域に分かれるとのこと。また、このような学問領域を示す概念とは別に、環境や自然との共生をはかる社会運動や、環境に配慮する行為などを象徴する意味でも使われている。(出典 EICネット 環境用語集)
 自然環境保護活動の一つの考え方から始まったエコは、今では地球環境問題への取組の一般的な呼称ともなり、更には健康の保持、先進国と発展途上国との公平な貿易といった概念まで広がってきた。

 自然との繋がりをしっかり認識できる生活は、どのような高度経済社会の中にあっても本来人間が必要としている価値観を見失うことはなさそうだ。エネルギーの浪費ともいえるライフスタイルに対してある種の無意味さも知ることができ、ここにエコの原点があるのではないかと考えている。

 というような話はさておいて、今回はサメのお話。
 エコとはあまり関係がないかもしれないが、サメは私があれこれと気になっている魚の一つである。

 小型の漁船で漁をする賀露の漁師の主力漁法は、ケタ網漁という底びき網である。
 タイやカレイに交じっていろいろな魚が獲れるが、セリ市場に出すことができない魚は、海に捨ててしまう。捨てる対象は値がつかない小さな魚や魚種。魚種というのは例えばサメだ。このサメがけっこうケタ網に入るという話を漁師から聞いたことがある。

 漁師の口癖の一つが、「高い燃料を使って船を動かすけれど、漁獲量が少なければ海に燃料を捨てるようなもの」である。高い燃料を使っているのだから、せっかく網に入った魚を捨ててしまうのはもったいないような気がする。しかし、セリ市場に出すことができなければ持って帰ってもゴミになるだけである。サメはそのゴミの一つなのだ。

 話は変わるが、数年前、中国上海の裏通りの路上でたくさんの食材を売っている光景に出あった。ざるに盛られた野菜。軒にぶら下げられた肉の塊。たらいに無造作に積んである魚。そしてその食材を囲む多くの人々の熱気は忘れられない。残念ながらその食材の取り扱いは日本の食品衛生の概念とは程遠く、あまり食欲をかきたてるものではなかったが。
 ある場所で、たらいに入れたサメを売っていた。すでに体の表面は乾いており、独特のアンモニア臭も放っている。しかしちゃんとした売りものであり、たらいの側で老人が「買わないか」といった仕草で通りを行く人に声をかけていた。

 私の街でも、昔はサメを食べていたと聞いたことがある。湯どおしをして酢ミソで食べるというのが一般的であったようだ。しかし、私は食べたことがない。機会があれば是非一度食してみたいと思っていたけれど、地元の漁師から見ればゴミである魚をそう簡単に手に入れることはできない。

 ある日、料理に関しては独自のうんちくを持つ友人からサメ料理の話を聞いた。
 鳥取県でもサメを使った料理を研究している人がいるというのだ。前述のとおりゴミとなるサメはそう簡単には手に入らないが、もし簡単に手に入り、おいしい料理になるのであれば、漁師としてもありがたいのではないだろうか。

 友人の漁師に、「サメを捨てないで持って帰ってくれ」と頼んだ。不思議な顔をしながらも承知をしてくれたのであったが、「いったい何に使うのか」とそれこそ私にとっては不思議な質問が返ってくる。「食べるんだよ」という私の答えにも「▼○△×■・???」というわけのわからない反応であった。

 さっそく翌朝、携帯電話にサメを持って帰ったという連絡が入った。
 嬉々として港へ急ぎ、船に乗り込んでその姿を確認した。グロテスクな姿かたちは仕方がないとしても、独特のアンモニア臭には閉口する。まだ獲れてから間もないこともあってさほど臭いはきつくはなかったが、時間が経てばかなりの悪臭を放つであろうことは容易に想像できた。
 とりあえず船上で内臓を取り除き、その内臓は海の魚のエサとした。
 身を水で洗っても、かすかに臭いが残っている。実はムニエルにすると最高のかすべ(エイ)もアンモニア臭がするのであるが、それよりも一段と厳しい臭いのように感じる。
 たぶんこのアンモニア臭が、漁師の「▼○△×■・???」反応だったのだろう。

 家に持って帰り、グロテスクな姿をインターネットで調べてみた。獲れたサメは、ホシザメとカスザメ。いずれも食用にされている魚種だ。食べることが出来るということを確認し、サメ料理の話を教えてくれた友人に電話をする。

 私 「サメが手に入ったから、料理をしてほしいのだけれど。」
 友人 「湯どおしをして酢ミソでいいの?」
 私 「酢ミソ以外ならば、なんでもいい。とにかく旨いやつ。」
 友人 「サメ料理を研究している人がいるという話はしたけれど、どんな料理がおいしいのかまでは聞いていないよ。」
 私 「じゃあ、あなたが創作料理をつくってよ。」
 友人 「高いですよ。」
 私 「サメが売れるとわかったら、たっぷりお礼をしましょう。」
 友人 「よし! その言葉、忘れるな!」

 そして、いくつかのレシピとともに、次のようなコメントをいただいた。

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 ホシザメとカスザメの味の違いは感じられませんでした。サメは、もともとほわっとした白身魚という感じですので、予想どおりどんな料理でも大丈夫そうです。
 しっかりとした食感はありますが、味は料理の味付けそのままです。つまり塩コショウで味付けをしたら塩コショウの味、しょうゆで味付けをしたらしょうゆの味と。いろいろな料理に使える反面、特徴はないということです。強いて言えば、サメという普段お目にかからないものを食べたという驚きが特徴なのかも。

 から揚げなどにして、人気食のラーメンやそば、カレーに乗せるのも面白いかもしれません。「つみれ汁」や「煮物」もできそうです。腕に覚えのある人は、フランス料理クネル(注)にするのもいいかもしれません。
 調理のポイントは、軟骨をきれいにとること。身が柔らかいので骨が残っていると気になります。
 そして下味をしっかりつけることです。生の状態で調味料をふり、しばらく置いて味をしみこませることですね。
 以上、報告終わり。

 さあ、サメ、売っておいで!!

(注)クネル
 すりつぶした白身魚(通常、川マスらしい)をすりつぶし小麦粉と卵黄、バターなどで練り合わせたはんぺんのようなもの。ソース・スペシャル(濃厚なホワイトソース)、ソース・モルネー(卵黄とチーズのソース)でいただくとおいしい。
 
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 サメは、ホームページで調べてみると郷土料理であったり、また新しい食材として提案されたりと、結構あちこちで使われているようだ。
 少し手ごたえを感じながら漁師に提案すると、結局セリで値がつかなければどうしようもないということだ。それではどこか料亭などで買ってはくれないものかと思ったりもするが、あの内臓処理とアンモニア臭では、なかなか使ってくれそうもない。
 私とて、毎日船の上でのサメの内臓とりはごめんだし、魚を売るとなると保健所の許可が必要となる。許可を得るための施設の費用やゴミの処理経費を考えると、とてもサメを売っただけでは回収できそうもない。
 
 自然の恵みを大切に味わうことはできそうである。ただし、自分で楽しむだけだ。
 いざ高い漁船の燃料を浮かそうと考えると、更なるエネルギーの追加とお金が必要になるということなのであった。

 友人 「売れましたか?」
 私 「まだだ。」
 友人 「なぜ?」
 私 「だって俺、味見していないから旨いかどうかわからないもの・・・。」
 友人 「いったでしょ。塩味にしたら塩味、バター味だとバターの味そのままだって。」
 私 「じゃあ次は“クネル”をつくってみよう。またサメをもっていくから、それから考えようね。」

 もちろん、その後サメは持って行ってない。


ホシザメ
 

サメはいかが?


■てんぷら(しょうが醤油づけ)
 これはサメ料理の一番人気になりそう。しょうが醤油に漬け込み、衣をつけて揚げてみました。衣に軽く塩気と磯の風味をつけるために「わかめ塩」を添えています。
■ソテー(塩コショウ)
 やきたてはおいしい。正確に表現するならば「旨い!」でもないけれど不味くもないというところ。冷めると少しにおいが気になるかもしれません。気になる人には、ハーブやレモンを添えることがお勧めです。下味もしっかりつけた方がよさそうですね。
■ホイル焼き(マヨネーズ+醤油+ウスターソース)
 味付けが濃いので無難な一品です。
 蒸し焼き状態の身は、少しぱさぱさ感がありますね。
■バター醤油焼き 
 焼きたてはとてもいい香りで食欲をそそります。見ただけではやはり白身魚で、サメといわなければわりません。もちろん味は、バター醤油そのままです。
■おろしポン酢
 ゆでただけのサメは冷えると少しぬめりが出てくるようです。臭いは感じません。さっぱり系の味つけは、やはり臭みが出る前にすばやい処理が必要でしょうね。
 生のときに少し塩をふり、下味をつけてから蒸すのが良いかもしれません。シンプルでさっぱり。夏向けで、ビールと相性があいそうです。
■唐揚げ
 軽く塩コショウをして、小麦粉をまぶして揚げて見ました。ほわっとした白身魚のフライという感じです。それだけでは面白くないので、ソース(タルタルソース・トマトソースなどなど)を添えるといいでしょう。南蛮漬けや中華あんかけなどのバリエーションもありそうです。
■冷蔵庫で干物を!
 「干物が一番うまい」と誰かのホームページで見ました。今週は雨続きなので、低温で乾燥している冷蔵庫に放り込むことにしました。塩をふり、水気を吸うシートに包んでおきます。
結果は一週間後かな??? でき上がったらあぶって食べてみます。これは、日本酒に合いそうです。
(追)結局、冷蔵庫のゴミとなりました。
 
つぶやいた日 2008.6.3
一部修正加筆 2011.9.1

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