カワハギたべたい

脱サラ船酔い漁師 弁慶丸 河西信明氏

 港町で暮らすメリットの一つが、新鮮な魚を食べることができるということだ。
 新鮮といっても、ぴちぴち跳ねる魚がすべて旨いというものでもないらしい。魚によっては、少し時間をおいて食べた方が良いものもあるとのこと。正確に言うならば、「ちょうど食べ頃の新鮮な魚が手に入る」ということなのだろうか。

 実家の仕事が造船業であったこともあり、幼い頃の食卓には、漁師さんから頂いた魚がよく並べられていた。カワハギもその中の一つであるが、そんなに好きだったという記憶はない。その理由が料理法にあったことを、最近知った。

 当時の魚の料理法は、刺身か煮付けがほとんどであった。唐揚げ、ムニエルといった高尚な料理法はまったくといっていいほど記憶にない。(たぶん、一家の最高権威者であるお年寄りの口に合わなかったのであろう。)
 カワハギは、地元ではほとんどが煮付けで食べる。しかし本当に旨いのは、カワハギの肝と醤油で食べる刺身なのだ。漁師の奥さんから「まあ、食べてみんさい」と勧められ、一口食べてビックリ仰天。以後、時々カワハギを買ってきては、刺身と肝と醤油で楽しんでいる。ただ、スーパーで買うとよく失敗してしまう。やはり、食べ頃の新鮮なカワハギでなければ、まったくおいしくないのである。
(ついでの話だが、“かすべ”というエイの仲間の魚の料理法も、昔から煮付けであった。実は、ムニエルが最高であることもこの時知った。)

 賀露の漁師の主力漁法は、ケタ網漁という底びき網漁だ。
 2組のケタ網を船の両側から張り出した棒(ビーム)に引っかけて海底をゆっくり引いていく。6月から解禁となり3月まで続き、メイタカレイ、タイ、ホウボウ、オコゼなどが水揚げされる。ケタ網漁シーズンオフの主力漁法の一つに、かご網漁がある。カワハギは、このかご網漁が良いそうである。

 そこまで話を聞いてしまったら、おやじとしては是非かご網漁を体験してみたい。できれば子ども達にもこのかご網漁と、食べ頃の刺身プラス肝醤油を経験させたいと考えた。

 おやじが得意とする、後先を考えない暴走が始まる。

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とっとり賀露・漁師の学校 〜かご網漁業体験の巻〜
 かご網漁は、漁師の知恵と経験が詰まった、昔から伝わるたいへんおもしろい漁法です。大人と子どもが一緒になって漁師の仕事を勉強しながら、海の恵みや自然のすばらしさを体験しませんか!

 まずは、かご網漁の勉強です。
 かご網漁にはイカかご漁、タコかご漁、かにかご漁などがありますが、今回は、カワハギ漁に使用するかご網を使って、漁師さんの仕事を勉強します。
 袋状のかご網には、網を広げるための3つのリングが付いています。更に入口には、ロート状の網が袋状の網の中に入っています。先が細くなっているため、一度ロート状の網を通り抜けた魚は、もう外に出ることはできません。入口には長いロープを付け、先端に浮きをつけて海面に浮かべます。出口はロープでしばって魚が逃げないようにし、おもりを付けます。
 たったこれだけの仕掛けですが、この仕掛けに漁師さんのたくさんの智恵が詰まっています。


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 これだけ勉強すれば、もう出港である。さすがに最初から子どもたちを乗せることはできない為、まずはおやじが体験する。

 15時10分、鳥取港を出航。15時20分、一文字突堤を通過し外海へ出陣。15時40分、水深50mの瀬の周辺で魚影を探すが、魚影なし。更に沖へ移動する。15時49分、水深66m。エサのオキアミブロックをかご網に取り付け、15時58分、1番かごを投下。

 沖合で、もう少しお勉強をする。



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 鳥取の沿岸の海底は砂地が多いため、魚のすみ家となる漁礁が設置されています。
 鳥取港沖合いの水深60mあたり(片道30分程度)の漁礁周辺がかご網漁の漁場となります。
 さて、ここからが漁師の技術です。
 まず漁礁の位置を確認し、次に潮の流れを読みます。
 海の上層と下層では潮の流れが逆になることもありますので、漁師の経験と感が大切となります。かご網の中には、えさを入れます。えさは凍ったオキアミのかたまりです。

 潮の上流に、かご網の袋の先(出口)に付けてあるおもりを沈めます。かご網は潮に流され、海中で広がります。凍ったオキアミのかたまりは少しずつ溶け、潮に流されながらかご網の入口から出てきます。このえさが漁礁の周辺を泳いでいる魚を誘い、かご網に誘き寄せることができればゲットです。
 このかご網漁は、潮の流れが重要なポイントです。


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 16時03分、水深66mでポイントを探すも汐の流れがない。
 ポイントを移動し、16時15分、水深66.5mで2番かごを投下。
 しばらく様子を見ていたが、どうやら逆汐になっているようだ。お勉強のとおり上層と下層との潮の流れが異なっている。16時25分、ウインチで1番かごを回収。魚なし。エサが流れていない。1番かごをもう一度投下する。16時40分2番かごを回収。魚なし。やはりエサは流れていない。2番かごの2回目を投下する。17時09分、1番かごの2回目を回収。魚なし。エサは少し残っている程度。

 あ〜ん、もう。
 捕れない時はこんなもんだ・・という勉強も十分しているのだが、やはり漁師の仕事はきびしい。

 この時、実は大切なことを忘れていた。
 今回のかご網漁には、大阪から来られたおやじたちのお客さんも一緒に参加していたのだ。予想どおり、ほとんどのお客さんが床にうずくまっている。カワハギ漁どころではない。青い顔をして、時々波に向かって“まき餌”をしている。しかも魚が捕れないとなると、もう気の毒としか言いようがない。わざわざ大阪から来て頂いたのに・・・。

 17時25分、2番かごの2回目を回収。ようやく2匹のカワハギをゲットしたものの、今日の漁は、ここで終了。なんとも寂しい、カワハギ漁体験となった。

 子どもたちにもカワハギ漁を楽しませたいという、おやじの野望はというと、

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 かご網漁は、漁師の体験を通して海の恵みや自然のすばらしさを知っていただきたいと考えたものです。単なる自然体験学習の場だけでなく、地場産業である小型船漁業を通じて自然と共存することの大切を学び、引いては地場産業について更に理解を得ることにより、地域の活性化にも繋げようと考えています。

 子どもを漁船に乗せる際の安全性の確認、波高や漁場までの距離の確認のほか、県外者から見た賀露の地場産業である漁師の魅力や鳥取の自然環境についての再発見、更には、今後県外者から“親子の漁師体験教室(漁師の学校)”への協力を得ることを目的として、県外の環境NPOと共同で試験操業を行いました。

 しかし、@漁場までの距離が遠く、ある程度の波高でも乗船の経験の無い人はかなり船酔いをすること、A操業の危険性は少ないけれど、1艘の漁船に2名程度の経験者がサポートする必要があること、B漁獲量が少ないことから、興味を無くさない工夫が必要であること等の問題があることがわかりました。
 関係者の皆様には、今回の失敗に目をつぶっていただき、今後ともご指導、ご支援をいただきますよう、重ねてお願いを申し上げます。
 
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 以上、おしまい・・・とほほ。 


つぶやいた日 2007.6.27
一部修正加筆 2010.6.1
                               
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